調和型電力系統制御のシステムデザイン

研究概要

近年,地球温暖化問題や化石燃料の枯渇に起因するエネルギー問題が世界規模で深刻化し,二酸化炭素の削減やエネルギーの系統的な利用の観点から, 太陽光発電(Photovoltaic Power Generation, PV発電)に代表される再生可能エネルギーが注目されています. この動向に応じて,2030年までに大規模なPV発電設備と蓄電設備の導入が期待されており,電力供給システムが大きく変化すると考えられます. より具体的には,現在の電力供給システムでは,火力や水力,原子力などのエネルギーに基づく発電電力によって需給の均衡を維持していますが, 大規模なPV発電設備と蓄電設備が導入された場合には,それらの発電電力に加えて,PV発電電力や蓄電池による充放電電力を考慮し,需給の均衡を図る必要があります.

しかしながら,需要量の予測における不確かさに加えて,PV発電は天候や日射量の変化に依存して発電電力が大きく変化するため, 大規模なPV発電電力を有効に利用しながら需給均衡を実現することは必ずしも容易ではありません. このことから,蓄電設備を効果的に利用して,PV発電および需要予測の不確かさを許容する電力需給の枠組みを構築することが重要な課題であるといえます. 本研究室では,この課題に対して,例えば,以下のような研究を行っています. また,詳細はここをご覧ください。

太陽光発電と蓄電池を用いた電力最適配分制御

PV発電は,天候の変化や時間帯による日射量変化の影響を受けやすく,発電の出力変動が大きいという特徴があります. 例えば,晴天日の日中などは需要を上回る発電をすることがある一方で,日没後の需要ピーク時にはほとんど電力が得られずPV発電を活用することができません. このため,需要がピークを迎える時間帯には,小容量火力や揚水などの調整用電源による発電量を増やさなければならず,電力システム全体を運用する際に効率が悪くなってしまいます.

そこで,本研究では,つぎのような電力を最適に配分する枠組みを考えています. まず,蓄電池によって余剰な電力を蓄電できる状況を想定します. この想定のもとで,スマートメーターなどの情報通信端末を用いて,各需要家が日ごとのPV発電予測値および需要予測値を系統側へ送ります. つぎに,系統側はこの予測値を基に最適な調整用電力の供給量および蓄電計画を算出して各需要家へ配分します. これによって,i)PV発電を最大限活用し(環境性)ii)調整用電源を最小限に抑える(経済性)という2つの要件を満たしながら需給バランスを実現することを目指します. その際,二次計画問題をモデル予測制御の手法で解くことにより,予測値を用いた最適な蓄電計画の算出を行います. 本研究では,電力配分最適制御の理論的な枠組みの構築,並びに,予測値に含まれる不確かさの許容などを主なテーマとし,意欲的に取り組んでいます.

調整用火力コスト最小化に向けた不確かな太陽光発電予測に基づく蓄電池の充放電計画

上述のように,大規模なPV発電設備と蓄電設備が導入された場合には,それらの発電電力に加えて,PV発電電力や蓄電池による充放電電力を考慮し,需給の均衡を図る必要があります. しかしながら,PV発電電力や需要電力の予測値(PV・需要予測値)に存在する不確かさ(予測誤差)を陽に考慮した発電計画や充放電計画に関する研究は見当たりません. そこで,本研究では,図中の赤い領域で示されるように,予測誤差を予測の信頼区間(特定の確率で実現し得るPV・需要予測値の集合)として定式化し, 発電機の予備力と蓄電池の充放電電力を同時に用いて予測誤差を補償する配分問題を考えます.

ここでは,発電機と蓄電池によって予測誤差を補償する配分問題を,発電機の燃料費最小化問題に基づき定式化します. より具体的には,PV・需要予測値の集合に含まれる任意の要素(すべてのPV・需要予測値)を考え,最適化問題の解(最適な発電電力および充放電電力)が取り得る範囲の上下限値を求める問題として定式化します. ここで得られる最適な発電電力の上下限値は,実現され得るすべての予測値に対応が可能な,発電機の予備力の大きさに相当します. しかしながら,この問題は連続値の変動パラメータ(PV・需要予測値)を含む最適化問題であり,最適解を精度よく近似することは必ずしも容易ではありません. これに対して,本研究では,区間解析手法に基づき,変動パラメータに関する最適解の単調性を解析することによって,この問題に対する効果的な解法を与えています. この解法は,有限回の試行によって,最適解の上下限値が厳密に求められることに特長があります. ここで得られた上下限値は,図中の青および緑の領域の境界として示されています.

参考文献